臨床メモ
変貌するサルモネラ症
磯貝 元
1
1都立駒込病院伝染科
pp.758
発行日 1969年7月10日
Published Date 1969/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402202718
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古くからの食習慣の特異性もあって本邦では以前から細菌性赤痢,腸チフスなどの急性経口感染症の発生が高く,各種の食中毒もこの例にもれず毎夏各地で猛威をふるってきたが,ここ数年来,反尿処理などの衛生施設の改善,食生活の西欧化,食品保存技術の進歩,化学療法の発展などが相まってようやくはっきりと退潮を示しはじめてきた.しかしなにごとにも例外はあるもので,同じ食中毒に属してはいるもののサルモネラ症だけは最近の動向に逆行して,かえって増加する傾向をみせはじめており,その将来が注目される.この様相は欧米でも注意されており,アメリカで本症の年間届出患者数がこの10年で3倍近く増加したという統計もある.わが国での最近の発生状況を調べてみると,①発生はいぜん夏期が多いが,ここ数年他の季節にも患者が出はじめている,②保菌者が多数存在し,かつ下水中などからも容易に分離されるので,われわれの身近に多数の菌が存在すると推測される,③幼少年層に患者が多発する傾向が強くなってきた,④物資の広域流通機構の発達によって,汚染食品による大規模かつ広範な集団発生が起こりやすくなっているなどが従来と異なった疫学的特色となっている.
細菌学的にも,新しい菌型が各地でつぎつぎと分離されており,S.cubanaやS.havanaなど日本初登場の新顔が多数みいだされ,菌型の多様化が問題となっている.
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