文献抄録
敵を各個に撃破せよ
浦田 卓
pp.786-787
発行日 1968年6月10日
Published Date 1968/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402202273
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はじめに
昨年の暮もおしつまって,私のもっとも尊敬する医師のひとりである高橋晄正東大講師のたいへんすぐれた"現代医学概論"(東京大学出版会)が,わが国の医学界に提供された.従来の医学概論はややともすると,観念論的な—というよりは,"合理主義的な"といったほうが,より正確かもしれない.私がここで合理主義というのは,デカルトのそれである.—それであったが,直橋講師の概論はイギリスでいう経験主義的なそれである。そして本書の特色の1つは,"科学的認識の論理"を第1部で展開している点である.しかも本書の認識論の中核は,統計的または確率的認識論であるが,これに対して私はいささか疑念がないでもない.
周知のように,統計的または確率的認識は帰納法にもとづく.では,認識の手段としての帰納法から普遍法則(科学の重要な法則の大部分は普遍法則である)を論理妥当的に導き出せるかというに,すでにヒュームが指摘したように,それは不可能である.というのは,実験または観察から帰納法によって,普遍法則を導出しようとすると,論理的に無限後退におちいるからである.もう1つ,統計的または確率的認識には,危険なおとし穴があるよう思われる.それは,この種の認識が客観的真理または絶対的真理へのかぎりない接近—科学的認識が訂正可能なゆえんでもある—を,ややともすると阻害しかねない,という点である.
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