第17回医学会総会速報・1 総会から医学の将来を展望する
医学本来の使命を銘記すること
本間 日臣
1
1虎の門病院呼吸器科
pp.657
発行日 1967年5月10日
Published Date 1967/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402201775
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巨体と主体性の問題
近年までお隣りの中国は,"眠れる獅子"とよばれていた。つまり本当に眼がさめた暁にはどれほどの測り知れない力を発揮するかわからない恐ろしい存在ということである。しかし現在ではそのような言葉を聞かない。中国はすでに久しい以前から眼ざめて咆吼しているにかかわらず,身体の巨大さに比べて筋力は弱くその動きは鈍い。近代世界で他国に伍して生きるために必要なさまざまな種類の熟練された敏感な動きをとることができないのだ。以上は知日家として知られるライシャワー前駐日大使の"世界におけるもつとも大きな国の一つ,日本"というエッセイの冒頭で,日本が国土の広さをのぞけば,あらゆる点で世界の大国であることの対照として中国を引用した個所の要旨であるが,筆者が今度の総会でゆくりなくもこの文章を思い出したのは,巨体となつた日本の医学が,それだけ自主自律性の喪失に悩んでいるように感じたからである。学が真理への祈願であり方法であるかぎり,各分科の学は初め医学のめざす目標に向かつてのその領域での一つの拠点として作られたものであつたにかかわらず,ひとたび前進を始めるとしだいにそれ自体の自律性の支配するところとなつて,ときに医学という実証科学の体系から逸脱して工学,理学,化学の分野へ入り込んでゆくことのあることは自然でもあり,また必然でもある。
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