巻頭言
今世紀の精神医学の使命
森 則夫
1
1浜松医科大学
pp.226-227
発行日 2006年3月15日
Published Date 2006/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100223
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今から約30年前,私が精神科の修行を始めた頃,精神医学は生物学と精神病理学の対立の中にあった。生物学的精神医学の中で隆盛を極めていたのは精神薬理学で,現在の状況とさほど変わりはない。当時,私は抗精神病薬や抗うつ薬の薬理作用を一生懸命,頭に叩き込んだ。とは言っても,受容体の種類は薬理学的特性のみで分類され,限られた亜型しかわかっていなかった。細胞内情報伝達機構についても,cAMPやcGMPが最新の知見だった。抗精神病薬はドパミン受容体を阻害する,といった程度の知識しかなく,この薬物の本質的作用である脱分極性阻害が発見されたのはさらに後になってからである。あれから精神薬理学の知識は飛躍的に増え,分子生物学的理解が主流となった。また,細胞内情報伝達機構については,ほとんど無数とも言える分子機構の存在が明らかにされ,日々,新たな発見がある。一方の精神病理学だが,複数の流派が日本に紹介されていた。紹介元の多くはヨーロッパであった。当時の精神病理学とは,簡単には,いわば学祖の考えを理解して,その上に立って症状や症状を持つ人間を理解するものと,少なくとも私はそう考えていた。だから,基礎となる概念を丸暗記していった記憶がある。精神分析学もまだ精神医学の中で大きな地位を占めており,こちらの勉強は楽しかった。人間の精神のロマンをみるようだった。
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