メディチーナジャーナル 公衆衛生
正常値の考えかたをめぐつて
鈴木 継美
1
1東大公衆衛生
pp.1417
発行日 1964年12月10日
Published Date 1964/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402200621
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臨床検査法の本を繰つているといたるところに書いてあるのが正常値である。ある検査法について説明した後で,正常範囲はここからここまでと付記されている。しかし,この正常範囲がいかにして定められたものであるかについてはなんの記載もないことが多い。
公衆衛生活動が多様さを加え,いろいろな検査が集団検診で実施されるにつれて,正常範囲について吟味を加えなおすことが必要であると感じられている。産業医学6巻7号(昭39)に日本人労働者の血液生理値と題して日本産業衛生協会の委員会が実施した研究報告がまとめられている。この委員会は正常値という言葉を避けて生理値という言葉を使つた理由をつぎのように述べている。"血液生理値とは,いわゆる健康人の血液値という意味である。いわゆる健康人とは,自分も他人もべつに病気でないと思つて生活している人たちのことをいう"この定義は非常に実際的な考えかたにたつているのだが,ここで注目されるのは実際の研究結果である。赤血球数,血色素量,全血比重,白血球数についての測定結果の全変動のうち,解析された因子(労働条件,身長,体重,収入,扶養家族数,など)に由来する変動は,たかだか数%でしかない。おもな変動要因として推定されたものは測定誤差で,それに由来する変動が40〜50%におよぶものと考えられている。
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