私の意見
「開業医の向上をはばむもの」を読んで
pp.1226-1227
発行日 1964年11月10日
Published Date 1964/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402200574
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菊地先生の「開業医の向上をはばむもの」なる論文拝見したいへん心をうたれました。開業医の向上をはばむものの理由として私には私の考えがあります。私は開業医の息子,大学に10年近く在局し,また内科講師として3年半勤めてまいりました。まず開業してみて,(父の急死により家庭の事情でどうにもならず)じつのところ,私は学問的には正しいが,時には大学病院の患者へのヒューマニズムを無視した診療のありかた,(すなわちモルモット=患者という大学の考えかた)も研究機関としてある程度むりからぬ事ですが,一方べつの意味で開業医がファミリードクターとして生きること,これもまつたく正しいことだとますます信念を高めるようになりました。私の父は一ランドアルツトです。死ぬ半年前より狭心症様の苦痛がありました。心電図でも何回か負荷テストをこころみました。しかし血圧その他なにひとつ異常なく,5年前精神的に苦悶のまま惨死しました。それも私が硬塞の床上で「お父さん,もう二度と再起できないから,一生もうなおつてもあきらめてのんびり暮しなさいよ」と申したところ,みるみるうちに病状悪化してしまい,以後半日たらずで惨死しました。これは医原性の病気というべきものでないか。つまり私の言葉が頑固な働き者の父を殺してしまつたといまになつても涙のたねで,たぶん一生涯,私の心を傷つけさいなむことでしよう。
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