連載 患者さんは人生の先生・9
食事指導は腕のみせどころ
出雲 博子
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1聖路加国際病院内分泌代謝科
pp.1751
発行日 2014年9月10日
Published Date 2014/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402107770
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糖尿病に限らず、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症も、そしてそれらによってもたらされる動脈硬化、心臓病、脳血管疾患と、現代のあらゆる病気の発症が生活習慣、すなわち食事と運動の仕方に関係している。したがって、食事と運動の指導が内科医の仕事の重要な部分を占める。いかに上手に食事指導できるかは、処方薬を選択するのと同様かそれ以上に内科医の能力を反映するといっても過言でない。単に、適切なカロリー量や栄養素について知らないで過食し糖尿病になった場合、食事指導を守れば血糖が改善することもある。しかし、食事指導を厳格にするあまり、患者を通院から遠ざけ治療を中断させてしまったり、鬱にさせてしまうこともある。また、摂食障害に陥ってしまう患者も稀ではないが、それでは本末転倒である。
米国で働いていたころ、中西部出身の糖尿病患者に、肉やポテトの摂取量を減らすように指導したが、それができず落ち込んでいた女性がいた。彼女は言った。「夏はほとんど毎日家族や友人と、庭でバーベキューです。皆がどんどん食べているのに自分だけ食べられないのが、とてもみじめです」私は、「自分はパリジェンヌになったと思ってはいかがですか? いつも自分を素敵に保つため、楽しくふるまいつつも、実際に口に入れる量は気をつけていると」すると彼女の顔が輝いた。次の診察で、彼女は「先生、そのようにやっています、成功しています」と報告してくれた。また、食事のことばかり言われるのがいやになり、反動でアイスクリームを2L食べて入院してきた人がいたが、この患者は過食と嘔吐を繰り返す摂食障害に陥っていた。あまり厳しく言うと、このように取り返しのつかないことにもなりうる。
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