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プライマリ・ケアの醍醐味は,外来診療である.本邦の医学教育は従来より入院に重きが置かれてきた.新臨床研修制度が始まり,医学生や研修医の目がプライマリ・ケアや家庭医に注がれているが,2年間のスーパーローテート研修では入院医療を重視した体制にならざるを得ないであろう.しかし,入院での患者管理の作法と外来診療は全く別物である.本書は,外来診療に必要とされる内科にとどまらない各科の知識を,コンパクトかつ的確に集約し,態度や情報ツールまでをもまとめあげている.見事であり,驚異である.原著者の序文にある「外来ですばやく使える参考資料~覚え書き的マニュアル」となっており,発刊の目的「医療事故を未然に防ぎ,自信をもった診療ができるよう効率的に支援し,研修医に安眠の機会をもたらす」を達成しうる納得の出来栄えである.翻訳・発行いただいた野口善令先生ほか関係者の皆様に心より感謝申し上げたい.以下に,本書の注目点を少しばかり詳述したい.
まず,皮膚疾患,耳鼻咽喉疾患,眼科疾患,整形外科疾患,精神疾患,女性の健康,男性の健康,といった内科以外の領域についての各章が設けられており,いずれもしっかりと記述されている.『米国・ワシントンマニュアル「外来版」(救急外来マニュアルではない!)』 に,これらの項が取り入れられていることを皆様はいかがお考えであろうか? 一般外来診療マニュアルに,これらの項目が当然のように包含されているのである.専門分化した米国であってもカバーすべきこの領域について,日本の開業医や一般内科外来で必要とされないわけがない.必要とされていないと考る方々がおられたらそれは誤解であり,医師側からニーズを排除しているに過ぎないのである.また,それらの内容も充実している.ためしに腰痛の項目をお読みいただきたい.見逃してはならない“レッドフラッグサイン”を押えるだけで診療のレベルがアップし,“患者さんに知っておいてほしいこと”の項目だけでも診療が楽になるであろう(例えば,「腰痛の9割は,保存的療法のみで8~12週間のうちに完全に回復する」).実践を重視した米国式医学教育のエッセンスが感じ取れるところである.
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