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患者・家族と医療者が「治療のゴールを確認する」という作業は簡単そうで難しいものです.お互いの“expectation(期待するもの)”,つまり「患者,家族の求めるもの」と「医療者側が現実的だと考えること」にずれがある時は特に工夫が必要です.そのずれをどう埋めればいいのでしょうか? まずは,“background(背景)”を知ることが大切です.しかも背景には,病気の情報だけでなく,患者本人がどう自分の病気を理解しているか,どのように受け止めているかも含まれます.しかし,背景を知り,ずれを確認できたとしても,情報を一気に与えてはいけません.昇圧薬や降圧薬への反応が人それぞれで,点滴の調節が必要なように,反応をみながら情報もいったん止めたり,ゆっくりにしてまた少しずつ早めるような工夫も必要です.“titrating information(伝える情報の細かな調節)”が重要なのです.もちろん,点滴全開でOKな人もいますが.
たくさんの薬を一度に始めると,どれが効いているのかがわからないのと同じように,情報の種類も多すぎては焦点がぼけるのです.患者,家族ら聞き手も情報に圧倒されてしまいます.覚悟をしていたのか無言でかみしめる方もいれば,泣き出す方もいます.中には急に多弁になる方もいます.実際に先日のTumor Boardでは,残念ながらCTでがんの増悪がわかり,説明を受けた患者さんが“I am stunned!(stunn:気絶する)”と茫然自失になってしまい,その後の説明も“Why?”の繰り返しで何ともうまくいかなかったという例が紹介されました.こうした時に,“I told you.(だから言ってあったでしょ)”なんて言ってはいけません.その場で無理にすべてを解決するのではなく,別の場を設けたり,家族に加わってもらい根気よく待つ必要があります.誰にでも気持ちの波があるように1日のうちに受容と拒絶が繰り返されることもあります.昨日,話を聞いてもらいたいと言ったから今日も聞いてほしいとは限りません.今日はそんな気分じゃないかもしれないのです.治療のゴールもmoving targetです.患者の気持ちやニーズの変化にいらだったりせず,臨機応変に対応したいものです.また,お互いのずれを埋めようとすると葛藤(confrontation)や摩擦が生じることもありますが,それを恐れては前には進みません.そんな時は言葉に敏感になりながら,常にサポートする姿勢を示すことができれば最高です.
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