特集 産業歯科保健
職域を中心とした口腔保健の研究—現状と今後の動向
雫石 聰
1
,
埴岡 隆
1
1大阪大学歯学部予防歯科学講座
pp.410-417
発行日 1999年6月15日
Published Date 1999/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902094
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20世紀から21世紀に向かって,最近,政治,経済,行政などの分野において,様々な社会情勢が転換点を迎えようとしている.研究の分野も例外ではなく,産業歯科保健も同様のことがいえるように思う.かなり以前より,職業性疾病に関する研究を中心としたいわゆる労働衛生的研究はあまりみられなくなっているのに対して,最近では,ライフスタイルと口腔保健との関連性など職域や地域を含めたより包括的な研究が増加してきている.さらに,作業関連疾患に挙げられている全身疾患が口腔疾患とも密接な関係があることが明らかにされつつあるし,今後,作業関連疾患としての口腔疾患も解明されるようになるであろう.このような研究の流れは,職域での口腔疾患の予防や口腔保健管理に関する研究に見られるように,産業歯科保健の特殊性は残しつつも,地域歯科保健の研究分野とかなりの部分が重なりつつあり,この傾向は今後も続くと思われる.これらのことは,「歯および支持組織」にとどまらず,口腔全体の機能とその保健の重要性が認識されるようになってきていること,さらに,口腔と全身との相互のかかわりのなかで口腔保健が把握されようとしていることなど,「歯学」研究が「口腔医学」研究へと,そのコンセプトが変化していることも反映している.一方,これらの研究結果は,職域での口腔保健管理システムなどに実際に応用されていくのであるが,その成果についても,費用便益分析や費用効果分析などの科学的評価を加える研究が必要とされている.
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