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はじめに
騒音が難聴の原因になることは紀元前の昔から知られていた.ある程度以上の大きさの音を長い期間,繰り返し聞いていると,やがて難聴が生じる.これを「騒音性難聴」という.
騒音性難聴は,慢性の音響曝露が原因で蝸牛の外有毛細胞が障害されて起こる難聴であり,初期には純音聴力検査で4,000Hzを中心としたdip型(ある特定の周波数だけが悪くなる)の聴力像を示すことが特徴である.さらに進行していくと,両側性に高音域から徐々に難聴が増悪していく経過を示す.騒音性難聴を起こす音のレベルはおおよそ85dB(A)以上と考えられている.これは,おおよその目安として,大声でないと隣の人と会話が不自由な騒音レベルである.短時間であれば特に聴力に変化はみられないが,1日8時間勤務で5〜15年以上の長期間繰り返し曝露されていく中で,やがて難聴が出現・進行していく危険がある.
騒音性難聴は有効な治療法が確立されていない.一度起こってしまったら,その難聴は回復しない.発症後も同じ騒音環境に曝露され続けると,一層進行していく危険がある.ただし,騒音を低いレベルに管理することができれば予防することが可能である.発症後の騒音性難聴であっても,その後に有害なレベルの騒音を避けることができれば進行(加齢変化を超えた聴力悪化)を食い止めることができる.
製造業などを中心とした職場において,騒音の発生は決して珍しいことではない.騒音性難聴は今日でもなお難聴の原因として大きな比重を占めている.その予防のためには医療の視点のみではなく,職域における安全衛生対策の一環として,行政,産業保健センター,産業医や産業看護職などの産業保健関係者,事業所,個人がそれぞれのレベルで適切な対策をとっていく必要がある.
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