特集 公衆衛生/予防医学と分子生物学
環境/産業保健と分子生物学—環境発がん物質によるDNA損傷機構の解析
平工 雄介
1
,
川西 正祐
1
1京都大学大学院医学研究科社会予防医学講座(公衆衛生学)
pp.844-847
発行日 1995年12月15日
Published Date 1995/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901391
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われわれは常に環境中の化学物質に曝露されており,中には発がん性を有するものも多い.現在までに,環境中や食品中には多数の発がん物質が存在することが明らかになっているが,発がん機構がいまだ明らかになっていないものが多い.そのため,化学物質による発がん機構,とりわけ遺伝子の本体であるDNAの損傷機構を解析することが現在求められている.また,化学物質の発がん性を予知するための感度の高い短期試験法の確立が必要である.代表的な短期試験法としてはサルモネラ菌を用いたAmes試験がある.以前は発がん物質の90%がAmes試験でスクリーニングできるとされていたが,近年,Ames試験陰性の発がん物質が多く見いだされ,現在この方法でスクリーニングできる発がん物質は60%程度といわれている.そこでわれわれは,特にAmes試験陰性の発がん物質をも検出できる新たな短期試験法を確立するという目的で分子生物学的手法を用いてDNA損傷機構の研究を行った.
発がんはDNA損傷に基づく突然変異が積み重なり,いくつかのステップを経て起こると考えられている.特にがん原遺伝子の活性化とがん抑制遺伝子の不活化が発がんにおいては重要である.われわれは,化学物質によるがん原遺伝子およびがん抑制遺伝子への作用について解析するため,がん原遺伝子のc-Ha-ras遺伝子あるいはがん抑制遺伝子のp53遺伝子を含むDNA断片をサブクローニングし,それらを用いてDNA損傷機構の解析を行った.
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