特集 公衆衛生/予防医学と分子生物学
環境/産業保健と分子生物学—メタロチオネインの分子生物学
西條 清史
1
1金沢大学医学衛生学講座
pp.848-850
発行日 1995年12月15日
Published Date 1995/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901392
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メタロチオネイン(metallothionein:MT)は哺乳類のみならず植物に至るまで広く存在する分子量6,000〜8,000の酵素活性を有しない低分子蛋白であり,システインを30%以上含み,一分子あたり6〜8個の重金属と結合することが知られている.多くの場合,タイプⅠとⅡの二種類のMTが発見されており,種々の刺激で量が増加する(誘導される)という特徴がある1〜3)(表1).したがって,MTは重金属レベルの恒常性の維持や過剰な重金属・フリーラジカルの除去に関与する生体防御蛋白であると考えられている.また,亜鉛(Zn)が成長に必須であるうえ,海馬のような記憶を司る脳の部位に高濃度存在することから,成長や記憶との関与に興味が持たれている.さらに,誘導されないタイプのMTとして,神経の成長を抑制することからgrowth-inhibitory factor(GIF)ともよばれるタイプⅢがヒトおよびマウス脳から近年発見された4).
この蛋白が社会医学分野で注目された由縁は,カドミウム(Cd)が高い結合性を示すばかりでなく,強い誘導作用があったことからイタイイタイ病との関連が示唆されたこと1),作業現場で用いる化学物質や作業環境次第で誘導されること2,3)などがあげられる.あらかじめ緩やかな刺激でMTレベルをあげておいて,後の化学物質の毒性を和らげたり,フリーラジカルによる細胞の障害すなわち老化を防止しようという試みもある5).
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