特集 公衆衛生/予防医学と分子生物学
癌予防と早期発見へのアプローチ—癌予防法の開発
酒井 敏行
1
1京都府立医科大学公衆衛生学教室
pp.832-833
発行日 1995年12月15日
Published Date 1995/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901387
- 有料閲覧
- 文献概要
一昔前では,癌の治療法あるいは予防法において,発癌機構があまりにも不明瞭であったために理論的な方法の開発は極めて困難であった.ところが近年における分子生物学的手法の進歩により,発癌機構がかなりの部分明らかにされてきた.ことに発癌を促進する癌遺伝子と逆に発癌を抑制する癌抑制遺伝子の発見により発癌機構における理解は格段に深まった.中でも癌抑制遺伝子の異常を検出することにより癌体質が診断されるようになったことは公衆衛生学的にも極めて大きい意味を持つ.すなわち種々の遺伝性の悪性腫瘍の体質診断が採血した白血球DNAを調べることにより,なされるようになってきたわけである.これらの進歩により,一部の遺伝性の悪性腫瘍においては,癌体質診断が可能になったことは確かに福音であり,そのために早期発見および早期治療が可能になった事実は認めたい.しかしながら,一方では早期発見の極めて難しい遺伝性の悪性腫瘍もあり癌体質診断を行うだけでは,公衆衛生学的に不十分である.しかもたとえ早期発見の可能な悪性腫瘍であっても,癌体質診断される側の立場からすると不安も大きく,癌体質であることから差別される可能性すら否定できない.実際に米国では疾病の遺伝子診断をされたために保険会社から拒否されるケースが問題になっている.そこでわれわれは癌体質を診断された人に対して,その人に特異的な癌予防法あるいは,癌体質改善法に関する基礎的研究を行っているので,従来の一般的な癌予防法を簡単に説明した後に一部紹介したい.
Copyright © 1995, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.