講座 10代のこころを診る—思春期相談のために・3
家庭内暴力
武石 恭一
1
Kyoichi TAKEISHI
1
1千葉市立病院精神神経科
pp.201-204
発行日 1993年3月15日
Published Date 1993/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401900768
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1.はじめに
「家庭内暴力」は思春期の精神保健相談のなかでも対応に苦慮する問題の一つである.初回面接から,この問題の困難さが表れていることが多い.来所するのは親のみで,本人が来所することはほとんどない.本人の来所を求めれば,それが出来るならば,当の「家庭内暴力」の問題は起きていないはずだと,述べたてる親もいる.相談を受ける側は,いわば,火元を見ずに火を消すことを求められているのと同じになってしまう.
第二の困難さは,問題そのものが家庭内でしか起きていないことにある.しばしば,家庭内の,それも特定の一人にしか「暴力」が向けられていない.母親であったり,祖母であったり,弟や妹など家庭内の弱者であることが多く,自分からはその暴力に対抗できない.そのために,家庭訪問という方法をとることが出来なくなってしまう.訪問したあと,誰が頼んだのだ,と大暴れになることを恐れて家族は家庭訪問を断ってしまう.
相談を受けている側も,気がつくと,口をきいたと言っては子に殴られ,黙っていると言っては蹴られている親と同じように,板ばさみとなり身動き出来なくなってしまっていることがある.
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