連載 [連続小説]コロナのない保健所の日記・13
彼女の苦手なものは……
関 なおみ
Naomi SEKI
pp.441-452
発行日 2024年4月15日
Published Date 2024/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401210286
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三月五日月曜日 曇り
梅は散りつつあるも、桜のつぼみはまだ固い
朝、真歩が玄関のドアを開けると、隣の家の沈丁花の匂いがした。まだまだ肌寒いが、澄み切った空気の中を刺すように通ってくる冬の日差しから、霞がかった靄の中をくぐって届く柔らかな春の日差しへと、変化しつつある。再び巡ってきた三月は、異動の季節であり、また、花粉症の季節でもあった。
毎年スギ花粉が飛び始める前から、予防的に抗アレルギー剤を飲んでいる真歩は、くしゃみや目のかゆみには悩まされずにすんでいたが、薬の副作用でもうろうとしていた。数ある抗アレルギー剤の中でも、一番眠くならないものを選択しているのだが、体が重くて始終眠気があるのは否めず、毎年この時期は、いつもよりさらに低いテンションで過ごすことになる。
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