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はじめに
災害時における保健医療福祉行政の役割は、防ぎ得た死と二次健康被害の最小化である。避難生活に伴う健康課題は、深部静脈血栓症、慢性疾患の悪化、生活不活発病、感染症、栄養不足、口腔衛生、メンタルヘルスなど多岐にわたる1)。被災者が抱える健康課題は、保健・医療・福祉分野と広くまたがっており、分野横断的な支援体制が必要となる。保健・医療・福祉が連携して活動するためには、保健医療福祉ニーズ等の情報収集および分析・評価に基づく支援チームの総合調整(マネジメント)が重要である。
地方自治体である都道府県および市町村には、災害から住民の生命や身体および財産を保護する「責務」があり、その責務を果たすため関係機関などに必要な調整や指示を行う「権限」を有する、と災害対策基本法はうたっている2)。阪神・淡路大震災以降、国は災害時の医療だけでなく被災者の健康管理活動の実施についても、災害現場に最も近いところの保健医療行政機関である保健所において、情報収集や分析評価、支援チームの配置調整等のコーディネート体制を整備するよう、繰り返し通知を発出してきた3)4)。これら通知に基づき、熊本県では保健所長を室長とする「医療救護現地対策室」を地域の災害医療コーディネーター、医師会等から構成される地域災害医療コーディネートチームが支援する体制の構築に取り組んでいた。その最中の2016年に熊本地震が起こった。熊本地震では、熊本市・宇城・上益城・菊池・阿蘇の5保健所圏域にまたがり甚大な被害が発生し、多くの支援チームの応援を必要とした。当時、筆者は阿蘇保健所長として支援チームとともに被災者支援に取り組んだ。本稿ではそのときの活動や課題について、1)保健所における本部の立ち上げと多職種連携、2)県庁・保健所・市町村による3層の連携、3)情報収集・分析評価の課題、に分け、一部、令和2年7月豪雨災害時の対応と比較し考察する。
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