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9月13日(日)に「第28回さんぽ会夏季セミナー2020」をオンラインで開催しました.多職種産業保健スタッフの研究会であるさんぽ会(http://sanpokai.umin.jp/)の活動の中で,夏季セミナーは月例会では時間的に扱えないテーマを年に1回じっくりと議論するのが目的です.今年の第28回夏季セミナーは,さんぽ会として初めて基調講演に外国人講師を招聘しました.Myo Nyein Aung氏(順天堂大学国際教養学部)は,約10年前に公衆衛生学講座(丸井英二教授,湯浅資之准教授,当時)との国際共同研究で,タイのチェンライ市やランパン市で減塩や禁煙の介入研究でご一緒して以来の知己です.6月21日(日)には新型コロナ対応に関する国際オンラインシンポジウムを主催し,アジア各国の良好実践についてまとめられていたのが印象的でした.今回は,国際的・大局的な視点からコロナの影響について学び,その上でウィズコロナの職域の健康教育・ヘルスプロモーションについて考えるというのが狙いです.
第Ⅰ部の基調講演では,「新型コロナウイルスが世界をどう変えたか? 健康教育・ヘルスプロモーションはどう変わったか?」をテーマにお話いただきました.Myo氏は,新型コロナは医療だけでなく,政治経済へのインパクトが大きかったと述べ,その影響として多くの業種で経済活動が低下し,前例のない経済危機や失業の増加がみられること,学校閉鎖により教育の混乱が生じたこと,貧困レベルが悪化し,健康格差が拡大したことが示されました.またロックダウン等による大幅な移動制限は運動不足や生活習慣病の増大につながり,不安やストレスの増大はメンタルヘルスへの悪影響をもたらしました.COVID-19時代の健康教育・ヘルスプロモーションでは,ソーシャルディスタンスやマスク・手指衛生などの感染予防行動に加えて,身体活動,健康的な食事,禁煙などの従来同様の健康的な生活習慣がターゲットになります.行動理論の基本には多くの類似点がある反面,ソーシャルディスタンスについての公衆衛生的介入には,各国の文化(日本における花見やタイ・ミャンマーにおける水祭り,イスラム圏のラマダンなど)との対立の可能性もあり,介入が難しいこともあります.一方で第1波の封じ込めにはアジア各国で種々の工夫がみられ,タイ(地域のヘルスボランティアの活躍),ベトナム(4,500万人にリーチしたYouTube健康教育),ミャンマー(数十万人の帰国労働者の受け入れと脆弱なヘルスシステムを守るための地域隔離)などの良好実践についても話されました.自粛下で多くの健康教育・ヘルスプロモーションがオンライン化したこと,貧困地区でも携帯電話が活用されている例を挙げ,デジタルヘルスプロモーションとeリテラシーが非常に重要になると述べられました.最後に“Every dark cloud has a silver lining. Let's see the positive of the negative.”と締めくくり,困難な状況下でも変化の良い面に注目することの重要性を話していただきました.北島文子氏(順天堂大学)による翻訳スライドも配布しつつも,講義や質疑は全て英語で行ったので,参加者も大いに刺激を受けてくれたようです.
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