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はじめに
近年,毎年のように大規模な災害が各地で発生しており,今後もわが国のどこかの地域で,いつ発生してもおかしくない状況である.東日本大震災以降,災害時における歯科医療救護体制を構築する取り組みが自治体および歯科医療専門団体において活発に行われており,災害発生時には,歯科保健医療活動が積極的に実施されている.
災害時における歯科保健医療活動は,歯科医療救護活動,歯科保健活動,歯科保健医療体制の復旧の3つに大きくまとめられる.これに歯科的身元確認作業を加えて,災害時における歯科対応となる.災害時における歯科対応において支援活動の3本柱は①歯科的身元確認作業,②歯科医療救護活動,③歯科保健活動であり,歯科診療所の再建が歯科保健医療体制の復旧のための基本となる.平時における体制づくりが,災害時における歯科保健医療活動を円滑に実施するために非常に重要となる.
歯科的身元確認作業は警察と歯科医師会で対応し,歯科医療救護活動,歯科保健活動,歯科保健医療体制の復旧は都道府県・市町村と歯科医師会で対応するが,どれにおいても人的・物的資源の観点で歯科医師会の貢献は大きい.厚生労働省が2016年度に実施した調査において,行政歯科専門職の人数は,常勤の歯科医師が149人,常勤の歯科衛生士が759人と行政機関の保健医療専門職の中でも少なく,自治体によっては配置されていない職種でもある1).このことが,災害時における歯科対応の大部分を歯科医師会に担ってもらうことにつながり,結果として自治体の歯科専門職の役割を不明瞭にしているものと思われる.
本稿では,岩手県(以下,本県)が経験した「東日本大震災」と「平成28年台風第10号豪雨災害」の事例を参考として,歯科保健医療活動において県の行政歯科医師が果たした役割と,これらの災害を踏まえて平時に実施してきた対応を基に,災害時の歯科保健医療活動および平時における体制づくりにおいて,行政歯科専門職が果たすべき役割を述べる.
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