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はじめに
高齢化,現代人の生活環境に起因する疾病構造の変化,医療の高度化などによって,わが国の国民医療費は年々増加している.2016年度の国民医療費は42兆1,381億円,人口一人当たりの医療費は332,000円であった1).循環器疾患(心疾患,脳卒中など)は国民医療費(ただし,医科診療医療費30兆1,853億円)の第一位の傷病として,その19.7%を占めていた.循環器疾患は,日本人の死因としてがんに次ぐ位置である重篤さのみならず,国民医療費への影響の大きさも考慮して取り組むべき公衆衛生の課題といえる.
循環器疾患もがんも「生活習慣病」と称される疾病であり,さまざまな生活習慣がこれらの発生に寄与している.したがって,発生を防ぐ一次予防では生活習慣の修正が重視される.しかし,循環器疾患とがんの一次予防戦略で異なる点は,循環器疾患では血圧,血糖,血清脂質などの身体指標に着目することである.健康診査(以下,健診)でこれらを測定し,適正範囲から外れる値を呈する者(危険因子保有者=ハイリスク者)に対して個別に介入することが循環器疾患予防では一般的である.しかも,そのハイリスク者に対して生活習慣の修正を促すのみならず,長年にわたって薬物療法で管理していくことが珍しくない.このため,国民医療費低減を視野に入れて循環器疾患と医療費について論じる際,危険因子と医療費の観点から論じることが循環器疾患予防戦略と合致する.この基礎資料となるエビデンスは健診と診療報酬明細書(レセプト)のデータを活用することで得られるが,日本にこの類いのエビデンスはあまりない.
本稿では,健診・レセプトデータ活用の先駆事例である「滋賀国保コホート研究」2)〜6)と「厚生労働科学研究」(特定健診・特定保健指導と医療費に関する研究班)7)の知見を概観し,循環器疾患危険因子と医療費について論じる.
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