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はじめに
飲酒や薬物などの嗜好品,ギャンブルなどの趣味・習慣は,本来は自由に楽しめるものである.しかし,その程度や頻度が過剰な場合には深刻な健康障害や心理社会的障害を引き起こす.以前は「酒乱」や「ジャンキー」など意志薄弱などの人格的な問題として扱われていたが,近年は「依存症」というコントール障害であると考えられるようになり,治療・相談が行われるようになってきた.しかし,まだ十分といえない状況である.
例えば,アルコール依存症の場合,厚労省の研究班による調査1)によれば,患者は113万人であるのに対して,治療を受けている人は約4万人であり2),大きなギャップがある.薬物に関しては,覚せい剤や大麻はその所持や使用を犯罪として取り締まる方法で社会的にコントールしようとしてきたが,収監された受刑者の6割以上が再犯をしており,あらためて,処罰よりも治療や回復支援が必要であることが指摘されている3).ギャンブルについては,わが国はカジノの導入を進めており,ギャンブルを良いレクリエーションとして用いようとする人々と,ギャンブルへの依存症が増えることへの懸念から反対する人々の間で議論が生じている.なお,カジノが話題となっている一方,実はパチンコの依存症がすでに大きな問題になりながらも治療や相談体制が十分でなかったことも明らかになっている.
現在は多様な楽しみを求める時代であり,個人の嗜好にあった飲食や趣味を楽しむ権利を保障しつつ,それがもたらすリスクについて,どのように対応していくかが,あらためて問われている.上述のように依存症対策は進められているが,十分な支援にたどり着いている事例は一部にすぎないため,公衆衛生的な対策や,依存症になる前の予防啓発が重要であると思われる4).
本稿では,あらためてアディクション(addiction. 嗜癖)の基本的な理解を確認したうえで,その予防・治療を進めるために,いかにこの問題に対する社会的な認識を高めていくべきかを論じた.
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