特集 脳性麻痺と産科医療補償制度
扉
豊川 智之
1
1東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室
pp.509
発行日 2018年7月15日
Published Date 2018/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208922
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脳性麻痺は運動障害を伴う小児疾患であり,1,000出生に約2人の割合で生じます.知的障害などの合併症もみられ,家族への負担が大きい疾患です.脳性麻痺は,偶発的な事由によって生じる特徴を有します.そのため,医療訴訟を惹起させる疾患ともいえます.今日の周産期医療に目を向けると,2000年初頭から医師不足問題が指摘されており,妊産婦死亡を事由に産科医が逮捕される事件や,ICUの受け入れ困難から妊産婦が脳出血で死亡する事態が生じ,周産期医療の基盤に亀裂が表出しました.
上記のような社会的背景から,産科医療を対象にした無過失補償制度の導入が必要であるという議論が行われ,2009年に産科医療補償制度が創設されました.本制度は,分娩に関わる医療事故によって障害などを生じた患者と,その家族を救済するとともに,紛争の早期解決を図り,産科医療を安心して提供できる医療環境整備を進めることを目的としています.本制度は,登録した産科施設で出産する全ての母親を対象としています.在胎週数,あるいは出生時体重の基準を満たした出産で生じた脳性麻痺児を対象に給付する補償制度であり,2018年3月末で2,300人以上が補償対象となっています.本制度は公衆衛生従事者にも深い関わりがあります.脳性麻痺児は,退院後は地域で家族と生活していくことになります.脳性麻痺者,その家族,治療に当たる小児科医療者,公衆衛生従事者との地域連携が試される疾患と言えます.
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