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はじめに
聴覚障碍の早期発見と診断は,その児の言語発達を保障する療育・教育につなげる意味で極めて重要である.このことは,すでに広く社会に認識されてきていると思われる.母子手帳の交付,新生児聴覚スクリーニングの登場,従来の乳幼児健診,就学前健診など,わが国での聴覚障碍児の発見システムは世界に誇るものとなっている.
一方,早期発見された聴覚障碍児たちの言語発達は過去と比べて良好になったといえるであろうか.実際には,この評価は非常に難しい.先天性の中等度以上の難聴は出生1,000に対して1であり,先天性代謝異常の発症頻度よりはずっと多いとはいえ,絶対数は少ない.「聴覚障碍児の言語発達」と一般化して言及するためには,ある一定の母集団についての研究が必要である.例えば,英国の新生児聴覚スクリーニング後のコホート研究では,13〜19歳の聴覚障碍児の読解力,文法理解,談話表出について検討した報告1)2)がみられるが,元々の出生母集団が10万人規模となっていて,誰にでも追試できるようなものではない.実際には,少数規模の療育施設で数十人規模の聴覚障碍児を15年以上(出生から義務教育終了までを想定),一定の検査バッテリーで評価することになるのであるが,現在のわが国のマンパワーからみると現実的には困難である(小児難聴専門の言語聴覚士の絶対数が足りないため).さらに,本稿で述べるように,小児言語発達の評価方法が欧米諸国に比べて大きく遅れをとっていて,これも専門言語聴覚士の絶対数の不足と関係している.これらの制約条件があるため,筆者らは,わが国では聴覚障碍児の大規模な言語評価を行うことは不可能であろうと考えていた.
ところが,2005(平成17)年度から厚生労働省が一般公募とは別に,「国民的ニーズが高く着実に解決を図ることが求められている研究課題」について新たに「戦略研究」を創設し,感覚器障害戦略研究の聴覚分野として「聴覚障害児の療育等により言語能力等の発達を確保する手法の研究」(以下,本研究)が研究課題に定められた.研究リーダーには,公募者の中から著者(福島.当時は岡山大学に所属)が選ばれた.本研究は2007〜2011(平成19〜23)年度にわたって行われた.全国の研究者272人(医師,言語聴覚士,教員など)が参加し,日本全国の多くの保護者の協力を得て,最終的に有効回答が638人分となった.聴覚障碍児の日本語言語力に関する大規模な症例対照研究がわが国で初めて行われたのである.その多岐にわたる研究成果は2012(平成24)年1月に261ページに及ぶ研究報告書としてまとめられ,現在はテクノエイド協会のホームページで参照できるようになっている3).
本稿では,本研究の中から,聴覚障害診断後の療育教育方法の違いによって日本語言語発達到達度がどう異なるのかを紹介することにする.なお,以下に述べる対象,方法,結果,考察と展望に記された内容については,文献3に詳細が記載されているので,ぜひ参照をいただきたい.
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