視点
根拠に基づく健康政策を
堀川 俊一
1
1高知市保健所
pp.98-99
発行日 2017年2月15日
Published Date 2017/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208602
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EBMとEBHP
EBM(Evidence-based medicine,根拠に基づく医療)は現在では保健医療従事者が日常的に使う用語になっていますが,EBHP(Evidence-based Health Policy,根拠に基づく健康政策)はあまり馴染みがないのではないでしょうか.私が最初に健康政策の根拠について考えさせられたのは,1980年代後半の高知県在職時代です.1987年に老人保健法による保健事業の見直しが行われ肺がん検診,乳がん検診などが新たに保健事業に加わりました.実施準備を担当する中で検診の効果を証明するために数千人を実施群と対照群に分けて10年以上に渡って追跡するメイヨー・ラング・プロジェクトと呼ばれる無作為化比較対照試験(以下,RCT)が進行中であることを知りました.また,中間報告では実施群で発見肺がんが明らかに多いにもかかわらず死亡率の低下が認められていませんでした.当時のわが国では検診発見群の5年生存率が検診外で発見された人達の5年生存率よりも高いことが検診の効果と考えられていましたが,そう単純でないことをこの時始めて知りました.
導入後10年以上経った1998年になって厚生省がん検診の有効性評価に関する研究班の報告で,肺がん検診はいくつかの症例対照研究(RCTに較べると証拠の質は低い)の結果からかろうじて「十分な精度管理のもとで適切に行われた場合には効果が期待できる」とされましたが,視触診のみによる乳がん検診については「有意な死亡率減少効果が示されなかった」とされ,後に根拠があるとして欧米で行われていたマンモグラフィー検診が導入されました.
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