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なぜ,「難病の疫学」か
疫学を疾患単位で考える場合,国際的に見ても「癌の疫学(cancer epidemiology)」と「循環器疾患の疫学(cardiovascular epidemiology)」が2大勢力である.これらに加えてわが国ではもう1つの分野として「難病の疫学」が存在する.これを英語では「intractable disease epidemiology」と称しているが,英語(外国)では全く通用しない.2017年8月にさいたま市の大宮ソニックシティで開催される第21回国際疫学会学術総会(The 21st World Congress of Epidemiology, International Epidemiological Association:http://wce2017.umin.jp/)においても,cancer epidemiologyやcardiovascular epidemiologyのセッションはあるが,intractable disease epidemiologyはなく,いわゆる難病とされる疾患の疫学は個別の分野のセッションに入ることになる.
たしかに癌は部位によっても種類によっても様々なものが存在する.循環器疾患も心疾患と脳血管疾患では大きく異なる.しかしながら,それぞれ「体内に新たに発生する新生物」とか「(広い意味での)血管の問題に起因する疾患」といった生物学的な共通点があり,それぞれのカテゴリーでまとめることには意義がある.一方で難病は,「神経難病」「血液難病」「膠原病(に含まれる)難病」といったように,生物学的には共通点がない疾患群でありながら,1つのカテゴリーにまとめられている.この背景として,そもそも「難病」は1972年に国が策定した「難病対策要綱」1)に基づく,ある種の行政用語であり,これに基づき同年に「特定疾患疫学調査協議会」によって「難病の疫学研究」が開始され,1976年より厚生省(当時)の研究班として設立され,疾患別の臨床に関わる個別の研究班とは視点を変えた,疾病横断的に疫学研究を継続し,2012年度,13年度の2年間は中断したが,今日に至るまで各種難病の疫学研究を研究班活動として継続し,成果を世の中に提供し,患者の福利厚生や難病研究の推進に貢献している.
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