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タバコ・エピデミックの概況
1960年代をピークに,日本では成人喫煙率は減少に転じている.では,世界に目を転じ,もう少し長いスパンで見た場合にはどうだろうか.20世紀のごく初頭には,世界のどの国でも喫煙は庶民にとっては日常的なものではなかったが,20世紀前半に大量生産・大量広告の結果,高所得国(先進国)を中心に急速に拡大した.1950年代から米国・英国等で喫煙と肺がんとの影響が指摘され始め,20世紀後半に高所得国では喫煙率が減少し始めるものの,中低所得国においては喫煙率は上昇を続ける.21世紀に入って,中低所得国でも喫煙率自体の若干の減少は見られるが,世界の人口の大部分を占め,かつ人口増加の著しいこれらの国々では,喫煙者数はいまだ増加している.肺がんなどの健康被害は20〜30年を経て顕在化するため,21世紀中盤にかけて,これらの国々で,がんや心疾患の著しい増加が起こることが予測される.20世紀にはタバコが原因で死亡した人は約1億人であったが,現在の喫煙状況が続けば,21世紀には10倍の10億人が死亡すると推計される.そして,この3分の2は,中低所得国の70歳以下の勤労者層で発生する.中低所得国においては,マラリアや結核などの感染症は制圧されつつあるが,タバコによる健康被害は,これとは極めて対照的な状況にある.タバコ・エピデミックと呼ばれるゆえんである1〜3).
また,このエピデミックの背景には,高所得国の巨大タバコ企業が,規制の緩い国々へと世界中にマーケットを広げていった歴史がある.マラリアという病気は,マラリア原虫を蚊が媒介して人にうつしていくが,肺がん等の場合には,巨大タバコ企業が媒介し,タバコを世界中に拡散させている状況にある.
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