特集 公衆衛生の課題と展望
学校保健
東郷 正美
1
Masami TOHGO
1
1東京大学教育学部
pp.153-154
発行日 1988年3月15日
Published Date 1988/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207633
- 有料閲覧
- 文献概要
義務教育の年齢がほぼ当てはまる5〜14歳の年齢階級での死亡率は,人生において最低である.昭和60(1985)年の厚生統計によれば,人口10万対で5〜9歳では男26.6,女15.3,10〜14歳では男19.9,女13.1である.この年齢層は,感染症などで多くの人が死亡していた時代でも,年齢別にみればいつでも最低の死亡率を示してきている.低くなったといわれる乳児死亡率よりも,当然のことながらはるかに低い.その死因は不慮の事故が第1位であり,その中でも自動車事故が一番多い.学校保健の最低限の目標を,小学校入学以来中学校卒業まで,預かった子供を死なせないこととすると,当面の目標は,自動車事故をいかに防ぐかである.赤痢をはじめとする消化器系の伝染病や,肺炎などの呼吸器系の病気で,幼い生命が次から次へと奪われていった時代から見たら,想像を絶するくらいに子供は死なない時代に至ったといえよう.世の中の人々は,何とありがたい時代を迎えたと思っているだろうか,それとも,何と危険極まりない時代に暮らしていると思っているだろうか.もし前者であるならば,人々はきっとのんびりと生活を楽しめるであろうし,後者であるならば,常におびえて,生活を楽しむどころではなかろう.小・中学生侍代には,めったには死なないのであるから,もう少し学校でも家庭でも,のんびりと子供を育て,教育してもよい時代になったのではなかろうか.
Copyright © 1988, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.