特集 公衆衛生50年の回顧と展望
栄養の回顧と展望
福井 忠孝
1,2
Tadataka FUKUI
1,2
1前国立栄養研究所
2徳島大学
pp.49-51
発行日 1986年1月15日
Published Date 1986/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207193
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■戦前の栄養
昭和初期の公衆衛生上の栄養問題としては,大正年間に引き続いてビタミン(V)B1欠乏症の脚気に国民は悩まされていた.当時の国民一般の食生活には,肉,卵,ミルクの摂取量が非常に少なく,エネルギー源は主に穀類であったために,七分づき米,胚芽米,麦飯を食べないかぎり,V. B1が不足した.当時は緑黄色野菜の摂取量も少なかったためにV. Aが不足した.とくに青野菜の少ない夏期にV. A不足が目立った.有効とされた土用のうなぎは人間の経験から生まれた知恵である.当時の国民生活では,ミルクは病弱者用の特別食品でもあった.そのために一般にはカルシウムの摂取量が少なく,歯や骨の発育が悪く,とくに妊産授乳婦のように胎児や母乳に大量のカルシウムが移行するような場合には,母親の歯が著しく悪くなることもよくみられたものである.カルシウム不足の患者に対して,当時は消炎剤としてカルシウム注射がよく使用され,効果が認められていた.飯と漬物は当時の基本食であったが,V. Cの摂取量は意外に少なく,そのために鉄の吸収利用も悪く,さらに動物性食品の摂取量が少ないために,吸収率の高いヘム鉄の摂取量も少なく,鉄欠乏性の貧血者がしばしばみられた.
当時の食生活には動物性タンパク質,V. A,B1,B2,C,カルシウム,鉄の摂取量が少なく栄養欠陥が著しかったために,結核など伝染性疾患に対する抵抗力が非常に弱かったといえる.
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