特集 地域における精神保健
成人を対象とする精神保健と福祉
竹村 堅次
1
Kenji TAKEMURA
1
1昭和大学医学部精神医学教室
pp.302-308
発行日 1985年5月15日
Published Date 1985/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207044
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■精神保健対策の経過と最近の動向
周知のごとく,わが国の精神衛生対策は病院精神医療中心で推移した時期が比較的長く,それが現在の地域精神保健に及ぼす力もなお少なからず残っている.そもそも保健という表現は最近ようやくメンタルヘルスという言葉に置き換えられ一般化しつつあるのであって,1960〜70年代のはじめ頃までの,いわゆる精神病院ブームの時代には殆ど全く聞くこともなく,わずかに1965年の精神衛生法改正の頃から「地域精神衛生活動」という名のもとに,精神病者のためのささやかな社会復帰への試みがみられるようになった.
社会復帰と一口にいうものの,真の意味のリハビリテーションは医療保険制度をはじめ,病者に対する偏見や他の疾患対策優先といった諸々の厚い壁に阻まれて容易に進展し得なかったのも事実で,実践的先駆的活動に力を尽くした側からいえば非常にもどかしさを感じざるを得なかった時代が長かったともいえる.精神科領域では1969年以降発生した大学紛争の影響も少なからずあり,学会の正常化が遅れたことも行政努力にブレーキをかけた一因となっている.従って地域における保健対策の基礎である精神障害者対策が進まない以上,メンタルヘルス(以前は精神衛生と呼ぶことが通例であったと思う)の概念は容易には定着するはずもなかった.
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