衛生公衆衛生学史こぼれ話
2.リービヒの肉エキス
北 博正
1,2
1東京都公害研究所
2東京医科歯科大学
pp.250
発行日 1985年4月15日
Published Date 1985/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207031
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戦前・戦中に細菌いじりをやった人なら,人工培地を作る際,リービヒ(Justus von Liebig 1803〜1873)の肉エキスを主材料として使われたことと思う.直径約4cm,高さ約5cmほどの白磁製の円筒形の壷の大きなコルク栓をあけると,黒褐色のやや固めの粘土様の物質が入っている.これを目方をかけて溶かして使うのである.本来なら,上等の牛肉を挽いて,トロ火でゆっくり浸出して肉エキスを作るのであるが,手間と価格,均一性といった点では,リービヒの肉エキスが勝っている.わが国では馬肉,鯨肉,魚肉,さらに鰹節なども代用品として登場したが,成績は思わしくなかった.
さて,当時,ギーセン(Giessen)大学の化学の教授として令名高かったリービヒの許で,別天師は化学の研究に没頭していたのであるが,あるとき,師リービヒの許にブラジル(伝記によってはパラグァイかウルグァイ)の人がやって来て,あり余る牛肉の利用法を研究するよう依頼して来た.けだし,現在でもそうであるが,これらの国は牧畜が非常に盛んで,主として皮革を輸出していたのであるが,肉の方はとても食べきれず,冷蔵・冷凍の技術もまだ開発されておらず,肥料にでもする以外は捨てるだけであった.
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