特集 地域社会と老人問題
国際的にみた老人問題
籏野 脩一
1
1東京都老人総合研究所疫学部
pp.604-611
発行日 1979年9月15日
Published Date 1979/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401205916
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■老人問題の発生
加齢とともに慢性疾患は着実に増加し,死亡率も対数的に増加する.国により多少の相違はみられるが,高齢になってもとくに健康者揃いの,いわゆる長寿者地域の存在は疑わしく1)2),80歳を超えれば大方の老人が弱ってくる3).75〜80歳以上の老人を後期老人層として,それ以下の前期老年層と区別することができる.老人の問題は,労働参加を止めた老人人口と生産年齢人口との比の増大,ケアを必要とする後期老人層の増加によって,社会問題となる.老人の暮らしは,老人を守る制度,サービスの種類とその充実度に支配される.その程度は国の経済力に依存するが,その使い方は国民および政府の意思により決定されるものであり,各国の産業と文化的伝統の影響が浸透している.
農業では,家族的労働の寄与が大きく,家族は共同作業に従事し,老人の経験は貴重であり,老人は成人した子供に忠告し,援助するという役割をもち,尊敬と保護を受けることができる.したがって,老人の存在が老人「問題」として社会的に浮上してこない.工業は労働人口の移動と集中を必要とし,農業を基盤とする社会で維持されてきた拡大家族は核家族に分解し,家族の老親の扶養能力が低下し,社会全体で老人の面倒をみる必要が高まってくる.老人問題は工業化の成熟度に応じて,その切実さを増す.
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