特集 第15回社会医学研究会
一般報告
薬害・有害食品被害者の救済・復権をめぐる問題点—スモン事件の特質と森永ミルク中毒問題のその後
東田 敏夫
1
1関西医大公衆衛生学教室
pp.684-688
発行日 1974年12月15日
Published Date 1974/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204931
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食品あるいは薬品の安全性を確保することは,食品企業あるいは製薬企業に課せられた,何にもまさる義務であり,企業がその義務を果たすように監督,指導することは,国民の生存権を守らねばならない国の行政責任に属している.「食品衛生法」あるいは「薬事法」等はそのためのものである.有害食品あるいは薬害の被害者は,いわば国民の健康を守るべき義務を果たさなかった欠陥行政の犠牲である.したがって,有害食品や薬害による被害には,産業廃棄物等によるいわゆる企業公害より以上に,行政の責任がきびしく問われるだけでなく,被害者救済の行政責任があるはずである.森永ミルク中毒,カネミ油症,スモンなど,その例である.しかし,率直にいって,国は,有害食品や薬害を防ぐ責任を果たさなかっただけでなく,被害者救済にとりくまず,「無辜の民」の苦しみ,生存権,生活権,幸福追求権の侵害をみのがしてきた.このような加害企業だけでなく,行政の被害者無視の無責任状態がまかり通るかぎり,被害者らは,止むなく,加害企業に加えて,国を相手どって「損害賠償請求」の民事訴訟を提訴せざるをえなかった.しかし,わが国の未成熟な法体系と欠陥の多い裁判制度において,被害者らがもとめる「正当な救済・復権」をかちとることは容易でなく,むしろ"訴訟のあり方"によって偽かえって被害者・原告らの苦痛と負担は増大し,しかも加害者・被告の「免罪」がまかり通ることになりかねない.
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