特集 家族
精神病と家族
浜田 晋
1,2
1東京都精神衛生センター
2松沢病院
pp.259-267
発行日 1973年4月15日
Published Date 1973/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204652
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「患者」にとって,「家族」とは何であろうか?
ここに22歳のA男(分裂病)の手記がある.
『父母は,自分にサラリーマンになれ,としつこく言う.あと二,三年たてば勤めに出て月給を家に持って来てくれると本気で信じこんでいる.勿論そんなものになる気は毛頭ない.しかし自分は本心を誰にも明かさない.自分の夢はいつも父母にふみにじられてきた.小学校の頃,自分は歴史が好きで,将来考古学者になろうと思った.ある日,それを口にすると母は,顔に嫌悪の色を浮べて冷たく「お前なんぞ考古学者になれるわけがない」と言われた.そばで聞いていた店の番頭さんが「奥さん,子供の夢をこわすようなことを言うものではない」と母にいったのを今でも記憶している.すべてこういうやり方で,たびたび自分のはかない夢はつぶされて来たのだ.一人息子が金にならないものに興味をもつといつもきまって無情な態度で自分を非難する.息子の体にくついたシラミをつぶすように夢をこわして現実にひきもどそうとする.
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