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I.はじめに
精神分裂病患者が視覚刺激の知覚と認知の過程に障害を有することは多くの研究によってしめされている1〜3,7〜11)。われわれも奥行き知覚テストにおいて患者が正常対照者に比し著しく不正確な判断をおこなうことをみいだし,報告した6)。
認知障害の解析のためにはテスト条件はできるだけ単純であることがのぞましい。われわれのおこなったテストはきわめて単純で,のぞき窓からのぞかれる3本の鉄棒の遠近的位置関係の判断をもとめるものである。3本の鉄棒のうち両端の2木(標準刺激)は被験者から等距離に固定されており,真中の鉄棒(比較刺激)の位置は種々に変化させられる。
調整法的および極限法的テスト条件のいずれにおいても患者の奥行き認知は正常対照者より不正確であるが,認知の欠陥に関してえられる情報は極限法の場合にはるかに多い。患者の認知の不正確さは第一にはランダムな誤りによって,第二にはわれわれが過恒常と名づけた誤りによって特徴づけられる。このような認知の障害は日常的に習熟している両眼視の条件においてよりも非日常的な不慣れな単眼視の場合に際だって露呈される。奥行き判断の手がかりについての被検者の報告の分析から,われわれは患者の判断の誤りは客観的,合理的な手がかりを選択し,利用することの拙劣さによるのであろうと推測した。
当初われわれは以上のような知覚および認知の障害が分裂病に特徴的であろうとかんがえたが,その後このような考えは正しくないことが明らかとなった。奥行き知覚テストをより広汎な《正常者》に施行すると,分裂病者とほとんど同等の障害をしめす人々がかなり存在することがみいだされたからである。このような人々は分裂質者であろうとかんがえられる。
一般的に,分裂病者がしめす異常には分裂病の発病によって規定されるものと逆に分裂病の発病を規定するものとが存在する4,5)。後者の異常は患者が発病前からもっている,おそらく分裂病の素因によって直接的に規定され,発病の必要条件のひとつになるとかんがえられるものである。奥行き認知の不正確さはこのような分裂病の素因にもとづく欠陥,すなわち分裂質を反映するものであろう。1例ではあるが,奥行き認知が著しく不良であった若い女性の発病が確認されている。
ところで,分裂質者あるいは分裂病の素因を有する者を臨床的に診断することはなかなか困難である。この問題には分裂病の診断以上に議論が多い。しかし分裂病者の家族,両親および同胞,を分裂質者の代表とみなすことにはあまり異論はないであろう。このような考えからわれわれは患者の家族の奥行き認知をしらべることにしたのである。
分裂病者の家族についての研究はこれまで主として家族内力動の理解のためという見地からおこなわれてきたようにおもわれる。しかしそれは,上述のように,分裂質自体の理解,さらには分裂病の構造的理解という点においても重要な意味をもっている。
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