講座
生態学序論(4)—エネルギーの流れと物質循環
手塚 泰彦
1
1東京都立大学理学部
pp.708-713
発行日 1972年11月15日
Published Date 1972/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204578
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
4.生態系におけるエネルギーの流れと物質循環
エネルギーの流れ(energy flow)と物質循環(circulation of matter)は生態系のもつもっとも基本的な機能である.生態系というシステムはエネルギーの流転からみれば解放的なシステムであり,物質の循環からみれば閉鎖的なシステムである.しかし,この2つの機能は独立に作動するものではない.物質の運動はエネルギーの消費をともなうからである.
生態系の生物的構成要素としては,太陽の光工ネルギーを利用して無機物から有機物を合成する緑色植物(生産者)と他の生物を食う動物(消費者),生物遺体を無機物に分解する微生物(分解者または還元者)の3群があり,動物はさらに植物を食う植食動物と動物を食う肉食動物に2分されることはすでに述べた.生態系におけるエネルギーの流れと物質循環は上の群の生物の存在下で起こるのであるが,それをまとめて図示すると図1のようになる.すなわち,エネルギーの面からみると,すべての生物は太陽の光エネルギーに依存して生きている.というのは,緑色植物は太陽の光エネルギーを化学的エネルギーとして固定し,この化学エネルギーを動物や微生物が利用して生きているからである.しかし,この化学エネルギーも生物によって利用されると,最終的には熱エネルギーとなって系外に失われ,ふたたび生物によって利用されることはない.すなわち,生熊系ではエネルギーは一方的な流れである.
Copyright © 1972, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.