特集 性と公衆衛生
性と医学
村松 博雄
pp.348-359
発行日 1972年6月15日
Published Date 1972/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204484
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太古の昔から,あるひとつの秩序を志向するものは,人間の持つエロスやタナトスをどのようにコントロールするか,どのようなものとして認識するか,ということに最大の努力を払ったに違いない.
が,不幸にして人類の歴史は,私たちにそのような記録を数多く遺すということをしなかった.文学・芸術・哲学その他の分野において,私たちは,人類のすばらしい遺産に接することはできる.人間の知恵と経験を集積したものとしてのしきたりや,語り伝えに接することもできる.しかし動物としての人間に内在する性に焦点をすえ,医学・生物学・心理学・社会学・文化人類学の分野で多角的に論ずるようになったのは,たかだかここ一世紀の間にすぎない.しかもそれらのもたらした多くの業積が,私たちの生活,たとえば法律や道徳やしきたり都市生活といったものに反映して,人間の生き方にひとつの志向性を与えるという段階までには至っていない.
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