人とことば
社会保障の進め方
八田 貞義
1,2
1衆議院
2前日医大
pp.429
発行日 1969年8月15日
Published Date 1969/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203921
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立ち遅れた年金部門
わが国の社会保障制度は,国際的にみるとまだまだ貧弱である.たとえば,国民1人当たり社会保障給付費を,公定為替レートで米ドルに換算すると,西欧では1960年に100ドルから200ドルに達しているのに,わが国は1963年でも33.6ドルで,1/3から1/6にすぎない.国民所得に対する社会保障給付費の割合,すなわち社会保障給付率をみても,わが国は6.4%程度であるが,西ドイツ,フランス,イタリアのようなEEC諸国は15%から20%の高さで,その開きは問題にならぬほど大きい.社会保障給付費がかなり伸びていながら,給付率がよくなっていないのは,経済の成長に社会保障が追いつけないからにほかならない.
特に目だつのは,年金部門の立ち遅れである.わが国は,皆年金の実現によって全国民が年金保険の対象になったが,現に年金をもらっているものの比率は,他国に比べてずっと低く,無拠出の福祉年金対象者を除くと,107万人にすぎず,65歳以上の人口に対する比率は,せいぜい19%程度である.西欧の60%ないし90%とは比較にならない.これは年金制度の歴史が浅く,受給資格者がまだ少ないためだが,老後を不安定にしている重大な要因といえよう.
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