特集 保健・医療と公的責任
第9回社会医学研究会・主題報告と総括討議
特別講演
現代の貧困と自治体—政治経済学と保健衛生問題
宮本 憲一
1
1阪市大・商学部
pp.489-491
発行日 1968年11月15日
Published Date 1968/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203776
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
保健衛生問題のとりあげ方
保健衛生問題は,最近,近代経済学の中で脚光をあびつつある。たとえばアメリカのS. J. Mushkinの "Health as an Investment" という論文が1例である。これは1961年に行なわれた "Capital Investment in Human Being" というテーマの会議に提出されたものである。これまで近代経済学は,物的な諸関係を分析の中心にしてきたが,宇宙開発でソヴィエトのめざましい発展に刺戟され,人間の価値の評価に目をむけてきたのである。中でも有名なのが,T. W. Shultzの教育投資論である。Shultzは,国民所得の増大は物的設備の生産性の増大によるだけでなく,人的能力の増大にあることを主張し,人的能力を増大させる教育費を消費的支出でなく,投資的支出と主張したのである。先のMushkin論文もShultz理論にたち,人的能力を維持開発,あるいは補填する保健衛生費を投資的支出と考えているのである。そして,労働者が疾病その他の健康障害によって失う価値の損失に比べて,保健衛生費が小さければ,保健衛生 "投資" による "収益" があると考えているのである。
このような近代経済学の新しい理論は,人間を経済学の中にひきこむことによって,それを物的なものに還元する危険をもっている。たとえば,健康障害の中には貨弊価値ではかれないものがあり,比較計量されるのはその一部である。
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.