随想 明日を担う公衆衛生
若き日の感激
堀内 一弥
1
1大阪市立大学医学部衛生学教室
pp.428-429
発行日 1966年8月15日
Published Date 1966/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203303
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そのころ私は大学講師で,恩師の下に戦時研究に従事していた。課題は,「耐高性の増進に関する研究」というもので,今ならさしづめメキシコ・オリンピック対策と間違われそうなものであった。しかし,当時はそれどころではなく,B-29に対抗するわが空軍の戦闘機操縦者の耐高性を増進するのが目的であった。今から考えれば,全くバカらしい目的であったといえよう。
私の当面の課題は,常圧からの急激な減圧によって生体に発泡現象を認めるか否か? 発泡するとすればその予防(耐高性につながる)はどうか?,というもので,教室で以前からやっていた潜水病の研究の実績を買われたものであったと思う。常圧からの減圧によって潜水病様の症状を呈することは,実地でも知られ,すでにアームストロングの航空医学の本には,山羊の血管の内に気泡が生じている写真が載っており,航空栓塞症(aeroembolism)という名前までついていた。しかし私たちの誰も実際にみたものはいない。そこで,カイウサギ,ダイコクネズミ,ハツカネズミを使って急速減圧実験を開始したが,発泡にいたるまでに酸素欠乏のために死んでしまう。ウサギ用,ネズミ用の酸素マスクを考案してやってみたがどうもうまくいかない。4月からはじめて,毎日がんばっているうちに,第3回目の応召,内地残留,戦病,などの邪魔が入ったため,とうとう11月になってしまった。いろいろ考えた末,酸素欠乏に強いガマをつかってみることにした。
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