研究
中性洗剤ABSの衛生学的検討
谷戸 恵子
1
,
砂田 毅
1
1大阪府立放射線中央研究所衛生工学課
pp.712-717
発行日 1965年12月15日
Published Date 1965/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203165
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はじめに
戦後,電気洗濯機の普及が家庭主婦の洗濯労働の軽減に貢献してきたが,洗剤の需要は増大し,更に食器や野菜果物のごとき食品の洗浄にさえ洗剤を使用する習慣が普及するにつれ,洗剤の使用量は飛躍的に増加した。ところが,その洗剤は戦前と面目を一新して,いわゆる合成洗剤が主体となり,殊に化学的に安定な石抽系洗剤のアルキルベンゼンズルフオン酸ソーダ(ABS)が最近では最も多く用いられている。このものが石油系であることからその毒性に疑いが持たれ,ことに食器および食品類の洗浄に用いられている現状からして,経口的に大人口に摂取されていることが,将来何か国民の健康に不吉な影を投じないかと不安を持たれること自体は食品衛生思想の向上してきた今日では当然のことであろう。そのため,昭和37年に厚生大臣から「中性洗剤を野菜,果物類,食品類の洗浄に使用することの可否」について諮問が発せられ,これを受けて食品衛生調査会は「中性洗剤を,野菜,果物類,食品類の洗浄に使用することは,洗浄の目的から,はなはだしく逸脱しないかぎり,人の健康をそこなうおそれはない」と答申した1)。この答申を補足する意味で,厚生省食品術生調査会委員長の阿部は答中の骨子に説明を加えたのち2),「ある化学物質に毒性がある場合に,ただちにそれを人が用いるのは危険であると見なす考え方は正しくない。そんなことをいえばほとんどすべての化学的物質は用いられなくなるだろう。
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