綜説
日本における衛生行政研究小史(その2)
橋本 正己
1
1国立公衆衛生院衛生行政学部
pp.441-453
発行日 1961年8月15日
Published Date 1961/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202428
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3.大正時代および昭和初期
日清,日露の両戦役を経て,資本主義体制を確立したわが国の産業経済は,第1次世界大戦により手薄となつた欧州諸国の海外販路を独占することにより,未曾有の産業勃興の気運をつくり上げたのであるが,このような情勢による労働者の大需要は,多くの農民を工場へとかり立てた。一方このような経済界の好況は物価騰貴を来し,好景気の裏には生活難の声が高くなり,大正7年8月富山県の一漁村に起つて全国に波及した米騒動はこのような世相の産物のひとつであつた。つづいて大正9年3月から始まつた反動恐慌により,工場閉鎖,中小企業の倒産があいつぎ,失業者は急激にふえて階級対立は激化し,労働運動と農民運動とが都市と農村に激しい勢で進展していつた。さらに,大正12年の関東大震災,昭和2年の金融恐慌,昭和4年の世界恐慌と打ちつづく悪条件は,国民の生活を窮迫におとしいれ,社会問題は深刻化の一途を辿つたのである。
以上のような時代の動きを背景として,明治時代においていちおう近代的体制の基礎を整えたわが国の衛生行政は,大正から昭和に入るに及んで新しい段階へと一歩を進めたのである。すなわち,その第1は資本主義体制の発展に伴う社会問題に対処するための社会政策的立法であり,明治44年の工場法(大正5年施行)1)を先駆として,大正6年の軍事救護法,同11年の健康保険法2)3),昭和4年の救護法,同6年の労働者災害扶助法等が制定されている。
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