特集 食中毒
綜説
ボトリヌス中毒の発見をめぐつて
中村 豊
1,2
1北大
2道立衛生研究所
pp.318-326
発行日 1961年6月15日
Published Date 1961/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202410
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食物中毒のうち激しい脳神経症状を呈し,また致命率のたかいことによつて最も怖れられているボトリヌス中毒は,わが国においては最近まで絶無とされていた。また嘗て土壌からのClostridium botulinumすなわち原因菌の芽胞の検出陽性という報告はなく*,その土・泥などの中に分布は無いと信ぜられていた。これを証拠だてる事実として,本中毒の原因食として知られているハム,ソーセージあるいは缶詰など,わが国では盛に食用に供せられ,あるいは輸出されているが,これら本邦産の製品を食して本中毒に罹患した例はほとんどない**。すなわち,わが国はボトリヌスに関しては安全地域であるという考えが支配的であつたといえる。
しかるに著者等は昭和26年5月下旬北海道の日本海沿岸の知られた漁港である岩内町の郊外島野村で起つた飯鮨(いずし)を食しての患者14名,うち死者4名,重症者3名(他の7名は軽症)の中毒事件を道衛生部の依嘱によつて調査研究し,これはボトリヌス中毒であることを確認して発表した1),2)。
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