特集 災害対策
災害救助における救護班の公衆衛生活動
水野 宏
1
1名古屋大学医学部公衆衛生学教室
pp.293-301
発行日 1960年6月15日
Published Date 1960/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202280
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
I.はじめに
Mc Garvanは,公衆衛生を「community(body politicという表現も用いているが)に対する科学的診断および治療である」と規定している。わが国では,このような考え方が公衆衛生学徒全般にすなおに受け入れられるまでには至つていないようで,保健所などの活動も,その担当管内の地域社会を科学的に診断して,それぞれの病態に応じて適切な治療を加えるという態度に欠けているようである。保健所などの平常活動ではこの地区診断もいわば特に病識のないものの健康診断のようなものであるから,たとえこれを怠つていて,見落されていた病態が後になつて表面化する場合があつても,そのために責任をとわれることは少ないであろう。しかし地域社会が大きな災害にみまわれて,地域全体が重篤な症状を呈しているときは,速やかに的確な診断がつけられ,適切な治療が加えられるか否かは,地域社会の予後に大きく影響する。
この意味で災害時の「communityに対する科学的診断および治療」は極めて重要な意義をもつている。多数の死傷者が発生し,病者が続出し,衣食住のすべてを失い,その補給のルートもとだえてしまつた大きな災害にあたつて,迅速に診断を下し,てきぱきと治療法を指示していくには,平常時から「communityに対する診断と治療」を手がけ,これに練達していなければならない。
Copyright © 1960, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.