綜説
大都市における地区衛生組織について—本運動を阻むものの解明と対策への方向づけ
小林 治一郎
1
1神戸市衛生局環境衛生課
pp.187-195
発行日 1960年4月15日
Published Date 1960/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202262
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I.はじめに
いわゆる「蚊とハエのいない生活実践運動」として,本運動が全国的に展開されはじめてから,約5年の歳月が経過し,おびただしい数の人たちが,この運動に参加している。そしてこの運動を支える理論は,一つは生物学,薬学,環境衛生学などの自然科学的なものであり,他の一つは,社会集団を指導する社会科学的なものであるはずだ。前者については,薬剤,昆虫の生態などについて,かなりの業績が出されている。しかし,それにくらべて,後者,とくに都市に適用できる理論の形成ははなはだ遅れている。
この運動は,はじめ,都市ではある程度進みえても,農村地帯では効果が期待できないであろう,というのが一般の考えであつたようだ。しかしこの予想は,まつたく逆になつた。農村方面では,最近いわゆる「中だるみ論」が唱えられているが,大都市では,本運動が紹介され,一応の広がりはみたが,いぜんとして最初からの「壁」がぬきえない。この運動の方式は,農村地帯で確立し,農村的な地域社会において,自主的な地区組織活動として出発したが,これはそのかぎりでは適切であつた。しかし大都市に関しては,実績が示すように,そのままの運動方式では,大きな展開はのぞみがたいと思われる。
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