特集 耐性問題と公衆衛生
巻頭言
耐性問題と公衆衛生
内山 圭梧
1
1日本医科大学
pp.345
発行日 1958年7月15日
Published Date 1958/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201979
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サルフア剤を始めとし各種の抗生物質の出現により幾百万の人命が救われ,幾多の伝染病はその臨床像に於ても変貌を来し,今日では最早伝染病に対する恐怖の感は医師は勿論一般の大衆からも全く忘れられている。避病院,死病院とまで恐れられ,嫌われた伝染病院は今や多数の空床を擁して,漸次他の目的に転用される傾向になつて来た。又吾国の伝染病の花形とも云うべき存在であつた腸チフスは近来頓に減少し,しかもクロラムフエニコールの投与によつて急速に解熱,治癒に赴くという次第で,近頃では以前の様な有熱患者を見たら先ず腸チフスを考えよとの診断方針は通用しなくなつた。この様な腸チフスの激減はしかし抗生物質の効果のみに因るもので無いことは,同様に抗生物質が極めて有効である赤痢が依然として減少の傾向を示さないことからでもわかる処であるが,赤痢の方は致命率が0.5%以下という状態で,之又抗生物質によつて大きな恩恵をうけている。その他各種の細菌性の疾患についても概ね同様であつて,今や吾々は以前の様な伝染病の脅威から漸く免れたかの観を呈して来た。
然し乍ら之等化学療法の発達,普及に連れて色々な弊害や事故も相ついで見聞されるようになつて来た。既に今から100年前に新薬は急いで使え,さもないとすぐに効かなくなると皮肉つた人があるというが,吾々が今日手にしている薬は初めはすべて極めて有効,無害であるがそれが世上に普及して来ると間もなく中毒とか,アレルギーとか特異体質等という事例が起つて来る。
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