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耐性菌が臨床上の大きな問題として認識されたのは,本邦においては戦後間もないころ流行したサルファ剤耐性赤痢菌が始まりであろう.これ以後,新しい抗菌薬が臨床に使われるたびごとに,新しい耐性菌が出現してきた.抗生物質と菌との鬼ごっこの繰り返しとも言われたゆえんである.しかしこの鬼ごっこの繰り返しの問に,耐性の問題に生化学的な,最近は分子生物学的なレベルで詳細な検討が加えられ,一つの学問的体系を築きあげた.最初はペニシリンを始め,ストレプトマイシン,クロラムフェニコール,テトラサイクリン,あるいはマクロライドと幅広く耐性機序が検討されたが,β—ラクタム薬が主流になるにつれ,β—ラクタマーゼ対策に努力が集中し,第三世代セフェムやカルバペネムに至ってβ—ラクタマーゼ対策は目下のところ成功したかの観がある.しかし,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の出現は大きな驚きであった.β—ラクタム薬と結合親和性の低いペプチドグリカン架橋酵素の出現は,黄色ブドウ球菌にとどまらず他の菌にもおこることは十分覚悟しなければならない.まだ数は少ないが,かかる耐性機構を持つペニシリン耐性肺炎球菌も発見されている.
最近広く使われているニュー・キノロンの耐性菌の動向も気にかかる点である.緑膿菌と黄色ブドウ球菌で耐性化は確実に進んでいるようだが,他の菌についての報告は少ない.新しく使用された薬剤の耐性菌の動向をいち早く知るためには,何らかのサーベイランス・システムの確立が必要であろう.
忘れてはならないものに結核菌がある.現在はリファンピシンを軸とする短期療法の時代に入ったが,結核菌がリファンピシンに耐性化してくれば,後を継ぐ薬剤のメドが立っていないだけに困った問題を提起するだろう.今のうちから考えておかねばならぬことの一つである.
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