特集 子供の衛生と人間形成
綜説
母子衛生に望むもの
斎藤 文雄
1
1聖路加国際病院小児科
pp.117-119
発行日 1958年3月15日
Published Date 1958/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201934
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はじめに
昭和10年以前の母子衛生と昭和10年以後わけても最近の10年間の母子衛生とを比較してみる時,われわれはその発展のすばらしさに頭が下る思いである。妊婦死亡の漸減,乳児死亡率の低下何れもその成果を物語つているが,今日の母子衛生は単に病気を予防するとか,分娩の合併症を少くするとか,母子の死亡をくいとめるとかいうような医学の本質的な目的に副つて押し進めてゆくだけでは間に合わなくなつて来た。わが国のように母子衛生がおくれて発達した国では,まだ医学面の仕事だけでも負け惜みをいえば開拓の前途洋々たりで,まだ完全な姿で発展したとはいえない現在である。WHOのきめた健康とは身体的なwell-beingであると共に精神的にも,社会的にもwell-beingでなければならないとされている。そうすれば頑強な身体をもつ子供はそれだけでは健康とはいわれない。もしその子が家庭的に或いは社会的に適合しない性癖を持つているとしたら,その子はたとえ頑強な身体の持主であつても不健康児の烙印を押さなければならない。即ち今日の母子衛生は多分にその個人のおかれた社会環境,家庭環境においての人間関係に立脚した健康という考え方が必要であり,そこで始めて母子衛生の真髄にふれてくると思われる。現在のわが国としては目的は遠いかも知れない。しかし,この10年間のすばらしい努力に弛みがないものとしたら必ずしも遠い目標ではない。
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