特集 医療制度とその盲点(Ⅱ)
疾病と社會—都市を中心として
靑井 和夫
1
1学芸大学社会学研究室
pp.28-34
発行日 1955年4月15日
Published Date 1955/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201548
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1.予備的考察(理論的枠組)
「全国に蔓延のきざし,都民5割は感染か!」最近のT紙はこのような見出しをつけて,流行性感冐の全国的蔓延に警告を発している。「ある財の効用は,それが失われたとき払う犠牲によつてはかられる」という限界効果学説によると,健康に勝る富はないわけであるが,われわれは,ふつうほとんど自分の健康について考えるようなことはない。しかし,このように新聞に大きく取扱われると,あらためて自分の周囲をふりかえつてみる。
ところで,ひとくちに健康とか疾病といつてもそれは一体どのような状態をさしているのだろうか。医者の立場からいえば身体的な機能障害という言葉はとにかくはつきりしているようにみえる。ところが,「精神の疾病」「社会の疾病」という具合に,言葉の意味をひろげてくると,正常と異常を区別する基準がだんだんあいまいになつてくる。かかるあいまいさは,多かれ少なかれ「身体の疾病」にもつきまとつているに相違ない。19世紀末まだ社会学が生物学的アナロヂーの段階からぬけだしていなかつたころ,デユルケーム(E.Durkheim)をはじめ多くの学者の頭をなやました問題はこの点についてであつた。
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