随想
医学の異端者
土屋 忠良
1
1前:京都府衛生部
pp.46-47
発行日 1954年12月15日
Published Date 1954/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201505
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公衆術生学が何うやら重要視せられるに至つた今日に於ても,未だまだ多分にそうした気分が抜けきらないように思われるが,殊に終戦前の頃までは,医学と云えば即ち治療医学であつて,大衆の中には,直接患者の診療に当らない各地方庁の衞生技術官や各医科大学の基礎医学教授は医者ではないんだとさい考え居る者が相当に多く,いやそれどころか,物分りのよい筈の同僚医師でさえ動ともすると医学の異端者ででもあるかのように特殊の扱をして居られる向の決して尠くなかつたことは否めない事実であつた。
それかあらぬが,僕の同窓の一友人の如きは,自分の興味と力量とから,是非衞生技術官となつて公衆衞生の実を挙げて見度いと念願し,大張り切りで着々と準備して居ることが図らずも母親に知られ,「滅相な,とんでもないことだ,そんなものになるんなら何を苦しんで大学へなどやるものか,お医者さんにし度いばかりに,貸家を売り土地を売り,おまけに,お祖父様の大切にして居られた書画骨董の殆んど全部を手放してまでも,お前に高等の教育を受けさせ,お医者さんにしてやつた筈だ。
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