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ビタミン剤
吉川 春寿
pp.51
発行日 1954年6月15日
Published Date 1954/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201402
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- 文献概要
最近ビタミンと云うことばが特に大衆化されて,どんな人でも食物にビタミンが含まれていなければいけないのだと云うことを知つている。また,手許にある榮養学の教科書をとつて見てもビタミンと云う項目に提供しているページが全体の非常に大きな部分を占めている。このようにして,今やビタミンにあらずば榮養にあらずと云うような時代を現出しているがどうもわれわれの眼から見ると行き過ぎのように思われる。ビタミンは身体内でいわゆる3大榮養素即ち糖質,脂質,蛋白質が代謝をうけてエネルギーを発生する過程及び種々の無機物質が身体に利用される過程を調節するところの微量で有効な物質であつて,ビタミンなくしては完全な榮養は保てないのであるが,しかし,ビタミンが他の榮養素に比べて特に身体に重要であると云うわけでもなく,いわんやビタミン剤を服用したり,注射したりしていればそれで榮養滿点というわけのものでもない。それなのに,世間では何かビタミンが靈妙魔迦不思議の力をもつもののような印象を受けているようである。
こうなつた理由は,主としてビタミン研究の歴史とその研究結果が企業とむすびついたというところにあると思う。即ち,ビタミンが微量で有効であり,又化学的にはいろいろの複雜な有機化合物であつて,化学者の学問的興味をそそるものであつた。
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